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《団体規制法を徹底検証する!》

参考文章です。ぜひ読んで下さい。

《憲法と国際人権基準からみた、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案の問題点》

  
弁護士  海渡 雄一    

第1 立法事実の存在自体が疑問

 新たに法律を制定するには立法の根拠となる立法事実が存在することが不可欠である。今回の法案はオウム真理教に対する対策と説明されている。確かにオウム真理教教団が、今も公式に地下鉄サリン事件など一連の事件への関与を認めず、被害者への謝罪の意思を示していないことに対して被害者の怒りの声や教団の進出地周辺住民の不安が表明されていることは事実である。しかし、このような住民の危惧と現実的な違法行為の可能性は分けて考えるべきである。

 オウム真理教教団については、公安調査庁による破防法の適用申請に対して、1997年1月公安審査委員会が同法所定の「将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれ」があるとは認められないとして、請求を棄却した経緯がある。このことの意味は重大である。

 オウム真理教が現在もサリン事件などの事件をくり返す危険があるのか、慎重に見極める必要がある。最近、松本サリン事件の被害者の兄妹が誘拐されたと警察に申告された事件が事実無根の狂言だったことが明らかになった。また、信徒の女性が教団施設内に監禁されていたとされ、信徒が逮捕された事件も女性から被害申告がなく、逮捕された信徒は釈放されている。これらの事件に関する警察、公安調査庁のリークに基づく一連の過熱報道が政府が法案を提出する呼び水となったことは否定できない。これらの事件が虚構であることがはっきりした以上このような法案の必要性そのものを根本的に再検討しなければならない。

第2 憲法・国際人権基準において認められた結社の自由の制限理由

 憲法21条は言論表現、集会結社の自由を憲法上の最も重要な人権として保障している。

このような憲法上の人権を制限できるのは憲法秩序に対する明白で緊急性のある侵害が予期されるような場合に限定される。また、他に選択可能なより制限的でない規制手段がある場合には、そのような制限は違憲となる。

 また、国際人権規約自由権規約19条、20条は表現の自由を保障している。21条は集会の自由、22条は結社の自由を保障している。この結社の自由に対する制限理由は21条に定める集会の自由と同様の制限が課せられている。

 このような制限は法律によるものであること、規約の目的に合致するものであることが必要である。また、このような制限は合法的な目的のために必要なものでなければならず、この目的と手段はバランスが図られていることが不可欠である。そして、この点についての国家機関の判断には裁量は認められない。

 このような判断の枠組みの下では、結社の自由に対する規制態様としての結社の解散、結成の禁止は、他のより厳格でない規制方法では不十分な場合であって、その団体の活動が国家の存立を脅かし、又は規約上の権利の破壊の現実的で明らかな危険がある場合にのみ、最後の手段としてのみ許されるものと解すべきである。

 

第3 過去における「不特定かつ多数の殺人及び殺人未遂」という要件の曖昧性

 法案の定義する「無差別大量殺人行為」とは、「破防法4条1項2号ヘに掲げる政治目的殺人であって、不特定かつ多数の者を殺害し、又はその実行に着手してこれを遂げないもの」とされている(4条1項)。「不特定かつ多数」という要件は「無差別大量」という表現に比べればずっと広い。世論に対しては「無差別大量殺人行為」というかなり限定された表現であるかのように宣伝し、実際の法律の中でこのように定義自体を改ざんしてしまうことは公正な立法態度とはいえない。

 多数とは法律用語としては2名以上を指し、未遂も含まれる。つまり、政治目的の殺人で二名以上のものの殺害を計画して実行に着手しただけでこの要件には当てはまることとなるのである。

 また、過去にこのような「不特定かつ多数殺人及び未遂」を行ったものであれば、その時期は問わない。団体の同一性が保たれている限り、何十年経過していても、要件に該当する構造となっている。この点は民主党案の過去10年以内という限定は対象団体を限定する上で有益である。後述するように将来の危険性は必要ないとされている。そして、これらの要件の存否は公安調査庁が認定することになる。公安調査庁は今も調査対象としている「日本共産党」「朝鮮総連」「新左翼系党派」「右翼団体」などについて、仮に現在はこのような活動を停止している団体であっても、いずれも一時期、政治的なテロ活動を行っていたと認定している。殺人の未遂まで含めればきわめて広範な団体が適用の対象となりうることとなる。

第4 将来の危険性は不要とされている

     ―意味のない観察処分のための付加要件―

 法案は、公安調査庁長官の請求によって、公安審査委員会が決定し、対象団体を観察処分とすることができるとしている。観察処分の対象とされた団体は役職員、構成員の住所氏名、土地、建物、資産、負債、その他公安審査委員会が必要と認める事項について処分から30日以内と3ヶ月ごとに公安調査庁長官に報告しなければならないとされている。また、観察処分の実施のため、団体の所有管理する土地建物に立ち入り、設備、帳簿その他の物件を検査することができるとされている。

 一応、法案はこのような観察処分を行うためには過去にその団体が政治目的の不特定かつ多数殺人を行い、または実行に着手しただけでなく、次の要件の内の一つが必要としている(5条1項)。

1 「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」の首謀者が現在も影響力を有している

2 「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」に関与した者が今も団体の役職員又は構成員である

3 「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」が行われた時に役員であった者が今も役員であること(この役員はこの行為に関与している必要はありません)

4 殺人をしょうようする綱領を保持していること

5 上記以外に「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があること

 しかし、これらの要件は今もその団体が「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」を行う危険性を端的に示す事実とはいえない。事件の関与者が今もメンバーである、事件当時の役員が今も役員であるという要件は簡単に充足されるものである。

第5 脱退の妨害や財産の増加だけで解散と同等の効果を持つ再発防止処分も可能に

       ―さらに意味のない再発防止処分のための要件―

 法案は観察処分の対象とされた団体に一定の要件がある場合に「再発防止のための処分」として土地と建物の取得の禁止、土地建物の使用の禁止、「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」の関与者とその時点の役員の団体活動の禁止、団体加入の強要と脱退妨害の禁止、現金、再建、有価証券、貴金属の贈与を受けることの禁止などを命ずることができるとしている(8条)。これらの処分は団体だけでなく、役職員と構成員も拘束する(9条)。そして、その違反は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象とされ、かなり重大な犯罪として取り扱われている。しかし、このように団体の構成員に対して、団体の解散とほとんど同様の激甚な効果をもたらすこの再発防止処分の要件は驚くほど広汎なものである。その要件は次のようなものだ。

「団体の役職員又は構成員が団体の活動として

1 殺人、傷害、暴行をし、又はしようとしている

2 誘拐をし、又はしようとしている

3 監禁をし、又はしようとしている

4 爆発物、毒物、銃器、製造設備を保有し、又はしようとしている

5 団体に加入することを強要し、脱退を妨害し、又はしようとしている

6 殺人をしょうようする綱領に従って構成員に対する指導を行い、又は行おうとしている

7 構成員の土地建物、設備その他資産を急激に増加させ、又は増加させようとしている

8 その他、「不特定かつ多数殺人行為及び未遂」に及ぶ危険性の増大を防止する必要があるとき

9 観察処分の不報告、立入検査妨害などがあって団体の危険性の程度を把握することが困難であるとき」

 このような要件は全く限定を欠いているといわざるをえない。とりわけ、すべての項目に付加されている「しようとしているとき」という要件や5、6、7、8号などは破防法の「将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれ」という要件と比較しても、あまりにも漠然としている。5号、7号は団体の危険性とは全く関係がない事柄である。そして、これらの要件の一つでも満たされれば再発防止処分を課すことができるのである。再発防止処分の要件は団体に死刑宣告に等しい活動制限を加える要件としては著しく無限定であり、結社の自由を保障する憲法21条や国際人権規約22条に違反することは明白である。

第6 拙速な手続きは適正手続き違反

 法案は観察処分、再発防止処分について、公安審査委員会は30日以内に決定を行うこととしており、破防法の適用手続に比べて著しい迅速化が図られている。破防法の適用について請求が棄却されたのは公安審査委員会が時間をかけて審査と論議を深めた結果であったといえる。法案の定める処分はその持つ効果からすれば破防法の団体解散の処分にも匹敵するものである。ところが、法案は、手続きを迅速化することで公安審査委員会に考える時間を与えず、観察処分、再発防止処分を発令させることが目的とされている。このような拙速な手続きによって結社の自由を奪うことは憲法31条の定める適正手続きの保障にも反するものである。

第7 規制目的と手段が著しくバランスを欠いた人権侵害立法

 以上の論議をまとめると次のようにいうことができる。この法案は時期を問わない、はるか昔でもよい過去に、団体の活動として不特定かつ多数の殺人を実行した、あるいは未遂に終わったという団体は、現状での危険性の有無をほとんど問題としないで観察処分、再発防止処分などの団体規制措置の対象とすることができることを定めている。そして、再発防止処分の内容は団体のあらゆる活動を不可能にするもので、団体解散と実質的には異ならない。

 そして、観察処分に基づく立入検査の妨害や再発防止処分に対する違反は懲役刑を含む刑罰で厳しく取り締まることとなっている。まさに、破防法の団体規制、活動制限と同様の規制内容となっている。

 オウム真理教については公安審査委員会では「暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれ」はないとされた。第1で述べたように、そのような状況に根本的な変化がないのに、事後的に新たに立法を行って同一団体を規制することは、立法の根拠がないばかりか、憲法39条の定める二重の危険の禁止の法理にもふれる可能性がある。

 結論として、この法案は規制のための要件はあまりにも漠然としている一方で、適用が決まった場合の団体に及ぼす影響はきわめて重大です。憲法と国際人権規約は表現の自由の制限については、規制の目的と適用の要件、規制手段の間で合理的なバランスがとられていることを要求している。団体の活動をほとんど不可能にする再発防止処分の要件は少なくとも、近い将来に無差別大量殺人の行為を繰り返す現実的で明らかな可能性がある場合に限定されるべきである。

 しかし、法案では、このようなバランスが全く図られておらず、憲法21条、国際人権規約22条に定める表現の自由、結社の自由を明確に侵害している。オウム対策を口実として、このような人権侵害立法を認めてはならない。日弁連は、今こそ、時流に流されるのではなく、法律家としての人権保障の原則に立脚して、冷静な議論によって法案の持つ危険性を広く訴えるべきだと考える。

第8 被害者救済法案について

 本法案とセットで政府は議員立法の単独特別措置法として、オウム真理教関連事件の被害者救済のための立法を準備している。

 この法案によれば、観察処分を受けた場合 任意団体の保有する財産の返還を請求するとき、破産宣告の時点に破産法人に属していたものと推定するという規定を置くこととしている。これによって、破産管財人の主張立証の困難性を緩和して、財団から流出した資産を破産管財人が返還を求めることを容易にすることが目的とされている。この法案についても、破産法における新得財産の保護とのかねあいから疑問はある。

 しかし、このような被害者救済立法の必要性そのものは理解できるものである。とはいっても、なぜ、被害者救済が観察処分とリンクしなければならないのか全く理解できない。被害者対策と団体規制を無理矢理リンクさせて、被害者対策のために団体規制法を作るような、外形を作っているといわれても仕方のない法案の構造となっている。

 仮に、被害者対策立法の必要性を認めるとしても、団体規制法と切り離した法形式の被害者救済立法を作ることは可能である。また、もっと一般的な通り魔的な犯罪に関して政府が拠出する被害者救済立法を強化する方向も模索されてよい。いずれにしても、この法案と被害救済は完全に切り離して議論することが可能であり、またそのようにすべきである。

第9 オウム真理教教団に対する対策について

 このような法案が憲法上、国際人権法上認められないとすれば、地域住民の不安に答えるために、オウム真理教教団に対して、どのような対策がとりうるかを示す必要があるという意見があるかもしれない。確かに地域住民の不安は深刻である。しかし、それらの一部はマスコミの報道によって作られたものであるし、一部はオウム真理教教団メンバーが真剣に自らの団体の行為を反省していないことに起因するものである。しかし、反省していないということと、今後も大量殺人を繰り返す危険性とは同一ではない。反省とは自覚に基づいてのみ可能である。

 最近、欧米では凶悪犯罪受刑者に対する社会復帰のための処遇の一環として、被害者との対話が重視されている。自らの行為、自らの所属する団体の行為によって被害を被った被害者、遺族と直接対面することを通じて初めて真の反省も生まれうるのである。

 このオウム対策特別立法が立法化された場合、教団の違法行為に関与していなかった信徒が、再発防止処分にも関わらず布教のための活動を継続したために逮捕、拘禁されることとなる。このような信徒は自らの逮捕拘禁を国家権力による弾圧と考え、自らを殉教者と考えるようになることを避けることはできない。刑事罰によって人の心、とりわけ宗教心を変えることはできないのである。教団は指導部を失い分裂状態に陥り、その一部は真に危険な団体へと変貌していくかもしれない。

 今真に必要な対策はカルトに対する社会的、心理的なアプローチを通じてのマインドコントロールの解除なのであり、この対策立法はこのようなアプローチを永遠に不可能にしてしまう危険性がある。本立法はオウム真理教に対する対策としても正当なものといえない。

                                   以 上




《社民党の基本姿勢》


        

いわゆるオウム真理教対策関連二法案について


社会民主党 内閣・法務部会   



社会民主党は、いわゆるオウム真理教対策二法案について、以下の方針を内閣・法務部会で確認した。

1.社会民主党は、宗教法人「オウム真理教」による、無差別大量殺人、誘拐、殺人、入信強要などの犯罪行為に対して、強い怒りを禁じ得ない。オウム真理教による被害者の健康の回復と社会復帰、犠牲者の補償、再発防止のために、十分な施策を講じる必要があると考えるものである。

2.政府提出の「団体規制法」は、包括的で拡大適用のおそれが強く、第二「破防法」との危惧もあり、現状では反対せざるをえない。松本・地下鉄サリン事件など、一連のオウム真理教による無差別大量殺人は、カルト教団によるマインドコントロールが引き起こしたものともいえ、単に過去の大量殺人・殺傷行為を問題にする「団体規制法」では、本質的な解決にはならない。

 社会民主党は、オウム対策を名目にしながら様々な団体の活動を規制する可能性のある「団体規制法」よりは、むしろカルト対策を視野に入れた立法が有効であると考えその準備をはじめている。

3.被害者救済立法は、サリン事件をはじめ、現在被害に苦しむ被害者救済のために、円滑かつ早急に実現しうるようにすべきである。被害者救済のために団体規制要件を前提とする必要はない。社民党は団体規制法を前提とせずに被害者を救済するための立法準備をすすめている。更に、オウム真理教によるものに限らず過去の大量殺人事件の被害者を、包括的に救済する措置の検討が必要だと考える。

                                    以 上




《日本弁護士連合会 のコメント》



いわゆる「団体規制法」についてのコメント



 日弁連は、オウム真理教に対して国民が不安と懸念を抱かざるを得ない現実を十分認識している。しかし、この法案が提案理由とする「再び無差別大量殺人行為に及ぶ」危険性については、警視庁等の信徒監禁事件の捜査結果や千葉県の女子大生の拉致狂言事件等から考えても、必ずしも明確ではなく、政府、警察、公安調査庁は、まずオウム真理教の実態、立法の必要性及び緊急性を客観的に明示すべきである。

 また、この法案は、簡略な手続き、厳格さを欠く要件により、観察処分や再発防止処分など、基本的人権を制限する規制措置ができる点において、憲法上の重要な問題点を含んでいる。

 日弁連は、立法を基礎づける社会的事実の有無、規制の要件及び手続の適否等を含めて、国会において、冷静、慎重、厳密に、かつ将来への影響も合わせて検討されるべきであると考える。

1999年11月2日


日本弁護士連合会 会長 小堀 樹

 



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