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少年法参考資料

日本弁護士連合会少年司法改革対策本部

1998年11月     

少年法問題に関するQ&A

-少年法の理念を護り 適正手続を保障するために



Q1 最近、中学生による凶悪事件が増えており、厳しい対応をするために少年法の改革が必要だと言われることがありますが、そのとおりでしょうか。また、そのほかの年齢の少年の事件はどうでしょうか。

Q2 非行を犯した少年をもっと厳しく処罰する必要はないですか。そのために少年法の改正が必要ではないですか。

Q3 そもそも少年法は、どのようなことを目指しているのですか。「保護主義」ということで少年を甘やかしているのではないですか。

Q4 少年法を厳しく改正することによって非行を防げないというなら、非行を防ぐにはどうすればよいのですか。そもそも非行はどのようなことから生ずるのですか。

Q5 現在の少年審判では検察官が関与しないそうですが、大人の裁判だと検察官が厳しく責任を追及するのに、少年だと何故検察官がいないのですか。

Q6 現在法制審議会では、検察官関与が検討されているそうですが、何故ですか。どういう問題があるのですか。

Q7 法制審議会で検討されている、検察官に抗告権を持たせるというのはどういうことですか。

Q8 少年事件でも被害者が無視されているように思いますが、そのための改革はされるのでしょうか。

Q9 日弁連は少年法制についてどんな意見をもっているのですか。





はじめに 



 1993年に発生した山形マット死事件についての家庭裁判所の判断を一つのきっかけにして、少年審判における事実認定手続きに関する議論が高まりました。そして、法務大臣は、1998年7月、少年審判の「事実認定手続きの一層の適正化を図るため早急に少年法を整備する必要があると思われる」として、検察官の審判への関与、事実認定及び法令の適用について検察官に不服申立権(抗告権)を与えることなどを中心とする事項の立法化を、法制審議会に諮問しました。法務大臣は、法制審議会に対し、1998年11月を目途に答申を出して欲しいと求めています。

 また、法務大臣は、1998年8月18日、15歳以下の少年つまり中学生にも刑罰を科するとか、少年法の適用を20歳よりも引き下げるなどという法改正を法制審議会に諮問せずに行うことを表明しました。この法務大臣の発言を受けて、9月5日、自民党法務部会少年法小委員会は、少年法の年齢引き下げ問題の検討に入ったと報道されています。

 これらの動きの背景として、「少年法は甘すぎる」とか「厳しく処分すれば少年非行は解決する」という、必罰主義、厳罰主義の考えが強まっていることを感じます。

 このQ&Aは、いま急浮上してきた刑事処分対象年齢の引き下げなど、厳罰化の主張の問題点と、法制審議会で法務省や最高裁判所が主張している少年審判への検察官出席の問題点を明らかにし、被害者支援の方向性を示す目的でまとめたものです。





Q1 最近、中学生による凶悪事件が増えており、厳しい対応をするために少年法の改革が必要だと言われることがありますが、そのとおりでしょうか。また、そのほかの年齢の少年の事件はどうでしょうか。



 表1のとおり、少年の凶悪犯事件の年齢区分を年ごとにみると、1997年は中学生に相当する年少少年(14歳、15歳)の事件が増えていますが、1986年当時の比率と比べて、年少少年の比率が目立って増加しているわけではありません。実態としては、すでに刑事罰の対象となっている中間少年(16、17歳)の比率が高いのです。その意味で、「刑事罰適用年齢を引き下げて、14歳、15歳の少年にも刑事罰を」という議論の前提である少年犯罪の動向について、冷静に検証する必要があります。

 また、近時のマスコミ報道では少年事件の凶悪化が強調されていますが、凶悪犯事件とされる殺人、放火、強姦、強盗事件の年毎の件数は、表2のとおりであり、1966年当時と比べると大きく減少しています。確かに、96年、97年と強盗事例の増加がみられます。しかし、1994年に警察が検挙した少年の強盗事件の74.1%が路上強盗であり、恐喝に近いものも多く含まれています。その意味で、強盗という罪名だけをみるのではなく、最近の非行の実体も分析する必要があります。他方、殺人事件は、60年代と比べると、件数でも、人口比でも激減しています。これは、欧米各国の状況に比べても特筆すべきことです。

 この様に、非行の動向は長い目でみていく必要があります。少年犯罪は著しく凶悪化しているというとらえ方は、少年非行の実態を必ずしも正確にみたものとは言えません。



表1 少年凶悪事件の年齢層別暦年比較表
   年少少年(14、15歳)  中間少年(16、17歳)  年長少年(18、19歳)  合計
   年  人員 比率%  人員 比率%  人員 比率%  人員
1976 288 16.1 749 41.9 751 42 "1,788"
81 352 20.7 715 42.1 632 37.2 "1,699"
86 341 27 441 34.9 483 38.2 "1,265"
91 189 20.8 371 40.8 349 38.4 909
96 238 19.9 567 47.5 388 32.5 "1,193"
97 412 22.6 809 44.3 602 33 "1,823"


 ※注 家庭裁判所終局主人員によるもので、年齢を調査していないもの(簡易送致事件)、年齢不詳並びに行為時14歳未満及び20歳以上を除く。

   (1996年までの数字は法曹三者の少年司法意見交換会で最高裁判所が提出した資料、1997年の数字は司法統計年報に基づき日弁連が作成。)





表2 少年凶悪犯事件の家庭裁判所新受人員歴年比 
  年  殺人  放火  強姦  強盗 凶悪犯計 少年1000人あたりの件数
1966 346 156 4851 2100 7453 0.55
71 130 155 2465 1044 3794 0.37
76 74 108 1152 576 1910 0.2
81 52 200 1134 767 2153 0.21
86 81 152 633 651 1517 0.13
91 60 74 346 723 1203 0.1
96 52 104 240 1315 1711 0.17
97 45 101 432 1917 2495 0.25


(司法統計年報に基づき作成)











Q2 非行を犯した少年をもっと厳しく処罰する必要はないですか。そのために少年法の改正が必要ではないですか。



 少年の凶悪な非行が起こるたびに、アメリカ各州の少年司法が70年代以降強圧政策に転換したことが紹介されますが、その非行抑止の効果には疑問があります。アメリカで、殺人で検挙された者のうち18歳未満の占める割合は、1991年には13.1%であったのが、94年には16.4%と増加しており、厳罰化が非行防止につながっていないと指摘されています。

 わが国においても、警察の捜査の実態をみると、凶悪事件においては、少年であっても、従前から警察は厳正に対処してきています。また、覚せい剤事件の少年の逮捕率は8割を超え、さらに年々高率化していますが、覚せい剤事件の増大化はくい止められていません。他方、シンナー事件についてみると、逮捕率は1割台とほぼ一定であるのに、事件数は大きく減少し続けています。

 アメリカや日本の実状に照らしても明らかなとおり、少年に対する警察の強い対応や裁判所の厳しい処分と非行の増減は関係がないのです。

 現在でも、16歳以上の少年には刑罰を科す途も設けられています。しかし、非行は、社会を驚かせる悲惨な結果を発生させた場合も含め、生育過程で必要な援助を受けてこなかった少年が起こすケースが多く、そのような少年に、「重大犯罪には重い刑罰を」という、応報的な対応をしても、非行の原因を解消することにはなりません。

 思春期は、心身ともに最も変化の大きい時期であり、心が揺れる段階です。人との関係のとり方に失敗することもありがちです。それだけに、適切な教育と保護が特に必要とされます。また、少年の非行は、社会を映し出す鏡です。非行は、現代社会の諸矛盾の反映でもあります。刑罰対象年齢引き下げという厳罰化の提案は、問題の本質から目をそらして、弱い立場に置かれている子どもに責任を押し付けることにほかなりません。





Q3 そもそも少年法は、どのようなことを目指しているのですか。「保護主義」ということで少年を甘やかしているのではないですか。



  少年法は、非行の未然防止を目的とする法律ではありません。非行をおかした少年の立ち直りと健全な成長を援助することを目的とする法です。

  少年は、成長過程にあり、大きく変わりうる素質を持っています。非行をおかした少年でも、おとなの側が適切な援助をするなら、比較的早い段階で立ち直ることができます。

  少年法は、本人が非行を行ったという事実を認識し、責任を自覚するよう促すことを前提にしています。そして少年の更生には、処罰ではなく、非行に走った原因を明らかにし、その少年に一番必要な手当てや教育を行い、学校や家庭など周囲の環境を調整することが大切だという理念に立脚しています。このような少年への働きかけに当たっては、教育学・社会学・心理学などの人間諸科学の成果が生かされ、少年と家庭・地域・学校などとの関係調整の場面でケースワーク的対応がなされます。

 これを「保護主義」といいますが、刑罰の量が犯罪行為に対応して決められるのに対し、少年の場合は、立ち直りに向けた反省が求められ、大人なら起訴猶予や執行猶予になるような比較的軽微な事件でも、少年自身の教育や環境調整の必要性が強ければ少年院収容になることもあります。また、少年院を仮退院した後も、一定年齢まで保護観察を受けるなど、少年の処遇は、けっして「甘い」ものではありません。

 このように、その少年の成長を支援し立ち直らせることが、少年の再非行の防止になり、結果として社会を犯罪から守ることになるというのが、少年法の思想です。

 この少年法の理念は、子どもの権利条約40条にも合致するものであり、わが国において有効に機能しています。法務省の97年度版犯罪白書でも、日本は、犯罪発生率、凶悪犯罪数など先進国の中で最も少ない、としているのです。





Q4 少年法を厳しく改正することによって非行を防げないというなら、非行を防ぐにはどうすればよいのですか。そもそも非行はどのようなことから生ずるのですか。



 非行は、少年の資質と少年を取り巻く環境の相関関係により生じます。少年非行の増減の歴史を見ると、その時々の社会的、経済的、文化的状況が非行の動向に大きく影響していることがわかります。わが国では、終戦後の貧困と混乱期であった1951年、高度経済成長期の64年、高学歴化と受験戦争がすすんだ83年と3つの非行のピ-クがありました。いずれもしばらくすると非行は減少しています。これらの非行の増減は、同じ少年法の下でおきています。この事実をみても、少年法を改正して非行を防止しようという議論が根拠のないものであることがわかります。今日の少年非行の背景には、家庭の教育力の低下、受験戦争の激化による子どものストレスの増大、性の商品化の風潮、経済不安による先行き不透明感などが、大きな影響を与えています。

 非行の予防には、警察や司法のレベルを超えて、福祉、教育、文化、そして雇用・労働さらには経済を含む総合政策こそが重要なのです。1990年の国連犯罪防止会議で採択された「少年非行の防止に関するガイドライン」(いわゆる「リヤドガイドライン」)の前文も「多くの青少年が見捨てられ、無視され、虐待され、薬物の濫用にさらされるなどきわめて劣悪な環境の下にあり、総じて社会的な危険に直面している」と子どもの権利の侵害が非行を生み出していることを指摘しており、非行防止のためには「幼児期からその人格の尊重と向上を念頭に置いて、調和のとれた青年期の発達を確保する努力を社会全体が行う必要がある」としています。











Q5 現在の少年審判では検察官が関与しないそうですが、大人の裁判だと検察官が厳しく責任を追及するのに、少年だと何故検察官がいないのですか。



 検察官は「公益の代表者」(検察庁法4条)として、犯罪による社会の危険を重視し、秩序維持を第一の任務とする立場から、大人の裁判では処罰を求める役割を担っています。ですから、当該少年の立ち直りを支援するという少年法の保護主義の理念と相容れないと考えられ、現在の少年審判には関与していません。戦前の少年法では、検察官先議という形で深く少年審判に関与していましたが、少年事件を、福祉的・教育的役割を果たしうる家庭裁判所に委ね、調査官制度を設け、保護主義による対応をとることになったのに伴って、検察官を関与させないことにしたのです。もちろん、家庭裁判所に送致するまでの段階では、検察官は捜査機関、送致機関として少年事件に関与していますが、少年事件が家庭裁判所に送致された後は、家裁の審理を捜査と完全に分断し、検察官を関与させていないのです。

 少年は日々成長発達する存在ですから、少年事件手続は迅速柔軟であることが求められます。そこで、捜査記録を全部まとめて家庭裁判所に送らせ、家庭裁判所が一件記録を検討して迅速かつ適切に少年への処遇決定をできるようにしているのです。





Q6 現在法制審議会では、検察官関与が検討されているそうですが、何故ですか。どういう問題があるのですか。



  法制審議会では、最高裁判所は、少年法全般はうまく機能しているけれども、非行事実が激しく争われる事件では、限られた時間の中で、一方で適正手続や中立・公正さに配慮しつつ、他方で証拠の収集・吟味に「多角的な視点」を確保することは裁判官個人の努力と力量をもってしても限界があるので、少年が事実関係を争っている事件の事実認定に限って、審判に検察官の出席を求めたいと言ってます。

 法務省は、公益の代表者として、あるいは被害者の代弁者として、少年が非行事実を争っていなくても、被害者が死亡した事件などについては検察官の判断で審判に出席する必要があると主張しています。

 最高裁判所と法務省のいう審判への検察官出席は、いずれも、大人の刑事裁判の場合と異なり、検察官から送られたすべての捜査記録について、裁判官が最初にまず見てしまうという現行の少年審判手続を前提としています。大人の事件であれば、起訴状以外には、被告人側の同意もないのに捜査記録を裁判官が見てしまうことはありません。これによって、裁判官が予断をいただくことを防止しています。しかし、少年審判の場合は、少年の保護を迅速適切に行うために、警察によって無理矢理作成された少年の自白調書をも含む全記録を裁判官があらかじめ読むという制度をとっています。そこで、少年審判で少年が事実を争う場合には、捜査記録によって「非行を犯した」と印象づけられている裁判官の認識から出発しなければならないのです。そのため、裁判官に真実をわかってもらうには、少年は付添人の援助を受けたりして、弁明をつくし、反対の証拠を集めて提出するなど、大変な労力を必要とします。ところが、最高裁や法務省の提案では、少年が苦労して証拠を提出し、ようやく裁判官の有罪の心証を揺るがした場合に、今度は裁判官が、「裁判官と検察官の一人二役はできない」ので「多角的視点」を確保するため、検察官の出席を求めることができる制度を新設したいといっているのです。

 少年は、防御能力や自己表現力が未成熟で、強い者や怖い者に迎合しがちです。少年のほとんどは、捜査段階で弁護人の援助もなく、取調室という密室で取調官に対して思うように弁解や説明ができないまま、本心を語っていない供述調書を作成されてしまうことがあります。それが家庭裁判所での審判段階で事実認定を複雑困難にしている場合が多いのです。これは、多くの少年えん罪事件で経験してきたことです。本来少年審判においても、無罪推定の原則や「疑わしきは被告人の利益に」の原則がとられなければならないのですが、今回最高裁判所や法務省が法制審議会で主張している検察官関与の提案は、結局のところ、「少年は嘘の否認をしているかもしれず、絶対にこれを逃がさない」という必罰主義の発想で少年に対処するものといわざるをえません。

 少年が非行事実を争い、裁判官の心証を揺るがせるほどに合理的な弁解や反証を行うと、捜査段階で自分の本当の気持ちを聞いてくれなかった検察官が裁判所の「協力者」として現れるという制度は、少年にとって極めて不公正な制度であり、とうてい容認することはできません。 また、法務省が、少年が非行事実を争っていなくても、社会的に注目されている事件には自ら立ち会うといっているのは、少年をどのような処分にするのかを決定する家庭裁判所の処遇決定手続にまで影響を与えようとするもので、厳罰化を目指すものに他ならず、上述のような必罰主義と相まって、少年法の理念そのものの変質を招くことになります。





Q7 法制審議会で検討されている、検察官に抗告権を持たせるというのはどういうことですか。



 現行少年法では、保護処分決定に不服のある少年には抗告して上級審でその決定を争うことが保障されていますが、家庭裁判所の手続に関与をしていない検察官には抗告権がありません。

 保護処分が自由の制限を伴うものである以上、少年側に上訴権(抗告権)が認められることは当然のことです。他方、検察官にとっては、刑事手続では現在検察官の上訴権が認められてはいますが、これも当然に認められなければならないものではありません。日本国憲法の解釈として、一度犯罪事実の有無に関する実体審理の負担を受けた以上、二重の危険禁止の法理(裁判所の審理の負担を強いられた人に対して、もう一度審理の負担を強いてはならないという原則)から、検察官上訴は認められないと解する余地もあります。憲法39条の母法国である米国ではそのように解されています。

 我が国でも、最近話題になった、差し戻し審も含めて2度も無罪の判決を受けながら検察官が控訴したために20年以上にわたって刑事裁判を強いられている甲山事件の例を見れば、検察官の上訴権が、裁判を受ける側に過酷な結果をもたらしていることがわかります。

 ましてや、日々成長発達する少年にとって、裁判所での手続が繰り返されることは、それだけで精神的・経済的に大きな負担を強い、その自立を妨げます。それは、家庭裁判所で非行事実なしの「無罪」の決定を受けたにもかかわらず、成人後に検察官が起訴したために、4年あまりにわたって被告席に座らされ、結局のところ検察官が裁判を維持できずに起訴を取り下げた調布事件の例にも明らかで、検察官に抗告権(上訴権)を認めることは、少年にとっては取り返しのつかない大きな負担となり、早期確定を目指す少年法の保護主義の理念に反する事態となります。また、検察官に抗告権を付与すると、審判が検察官の監視の下におかれることとなり、少年審判の変質を招きます。





Q8 少年事件でも被害者が無視されているように思いますが、そのための改革はされるのでしょうか。



 国の制度全体の中で、最近まで犯罪被害者は忘れられた存在でした。しかし、1985年の国連被害者人権宣言を契機として、欧米各国の被害者支援対策は画期的に発展しており、わが国でも対策を大きく進める必要があります。国は、被害者の精神的、経済的被害の回復への支援策やいわゆる「二次被害者」といわれる捜査や裁判およびマスコミによる被害の防止策などを総合的に検討すべきです。

 いま、全国の都道府県や市で、犯罪被害者を支援するための民間組織が作られ始めており、その全国の連絡会議も開かれました。各地の弁護士会でも、被害者の援助窓口の開設など、対策の具体的検討が始まっています。

 特に少年事件においては、被害者への情報の提供と、被害者の意見表明の機会の保障が重要です。

 現行法制の下においても、警察、検察、家庭裁判所の各段階ごとに、少年の立ち直りのためにプライバシーへの配慮を行いつつ、被害者が求める場合には、各機関が証拠により認めた事件概要など、できるだけ多くの項目を知らせることを検討していくべきでしょう。

 その際には、裁判所の結論が出るまでは少年には無罪推定があることを被害者に伝えることが大切です。

 もとより、被害者へ情報を提供することと、マスコミなどで一般に公開することは区別すべきです。

 また、捜査段階では捜査官が、家裁段階では調査官や裁判官が、それぞれ被害者の言い分や思いを直接聴き取り審判に反映させるという方法は、現在の法制度の運用によっても実現できます。少年が被害者の悲しみ、苦しみ、そして怒りを自覚し、その償いのための責任をどう果たすかを真剣に考えさせ実行させる機会をつくることは、少年の立ち直りのためにも重要なことです。

 現在行われている法制審議会において、法務省は、被害者の代弁者であることを理由の一つとして、検察官の審判出席を正当化しようとしています。しかし、そこには重大な議論のすり換えがあります。

 被害者が少年審判に求めるものの第一は、審判廷での審理の全体を知りたいということですが、検察官が審判に出席することと被害者に審理の内容を開示することとは別問題です。審理内容の開示は家庭裁判所が審理の主宰者として検討する必要があると考えますが、検察官が関与しなければ、被害者に情報が提供されないというものではありません。

 また、検察官は公益(国家・社会)の代表者であり、職務上被害者の代理人にはなりえません。例えば、起訴するかどうかで被害者の意見と検察官の意見が対立することをみれば明らかです。検察官が審理に出席することで、被害者の意見表明が満たされることにはならないのです。被害者の権利保障をめざすには、国選代理人制度などが検討されるべきでしょう。

 少年事件における被害者問題については、審判への検察官立ち会いなどという小手先の対策ではない、根本的な対策が求められているのです。





Q9 日弁連は少年法制についてどんな意見をもっているのですか。



 日弁連は、少年法の保護主義の理念を今後とも守るべきであると考えています。その意味で、近時高まっている厳罰化や刑事処分対象年齢の引き下げ等の声には絶対に反対です。 しかし、少年の権利保障・適正手続きの保障の観点からみると、現在の少年法制には改善・改革すべき点があります。

 日弁連は、少年の権利保障に向けて、弁護人・付添人活動の実践を強めてきました。そのなかで、少年司法の問題の第一に、少年の人権を軽視する捜査があること、そして審判が捜査の違法を適正にチェックできていないことが解ってきました。これを克服するために、少年の取調べのテープ録音ないしビデオ録画の義務化、被疑者国選弁護人制度の実現など、まず、捜査手続の改革を求めます。さらに、家庭裁判所での審判の事実認定手続において、事実関係に争いがある場合には、何よりも、弁護士の援助を受ける権利、少年の反対尋問権、補充捜査の制限などの確立を求めます。ちなみに、現在の刑事裁判には国選弁護人制度がありますが、少年審判には国選付添人制度がなく、弁護士付添人がつかないまま審判を受けている場合がほとんどです。

 さらに、日弁連は、事実が激しく争われる事件の審判における事実認定のあり方として、(1)捜査の可視化(取調べ状況をビデオなどに記録すること)、(2)必要的付添人制度の確定、(3)証拠の事前全面開示、(4)厳格な証拠法則の採用、(5)検察官の抗告権は認めない、等を必須の前提条件とし、少年が選択する場合に限って、少年事件専門検察官が審判に出席する対審的構造で審理する手続の導入を提案しています。これによって、裁判官が事前に捜査記録の全てに目を通すことにより生ずる予断を回避し、捜査側が提出する伝聞証拠(被害者や参考人の供述調書など)を少年側が予めチェックすることができるようになります。日弁連の提案は、あくまでも少年に適正手続を保障するという観点からのものであり、最高裁判所と法務省の提言とは異なります。

 また、日弁連は、早急に検討すべき課題として、(1)少年審判への市民参加、(2)審判非公開原則のあり方、(3)被害者への総合的な配慮を提案しています。 



参考資料「少年法改正」と少年非行対策に関するメモ

2000.5. 社会民主党 政策審議会



 最近、痛ましい残虐な少年犯罪が多発したことを背景に、少年法の改正の議論が活発になっています。与党は少年犯罪に対する厳しい世論を背景に早期の少年法改正を実現しようとしていますが、実際に今国会に付託されている「少年法改正案」の内容は現実の少年犯罪の抑止と直接関係がないばかりか、多くの問題を抱える問題法案といわざるを得ません。少年法改正案および少年非行問題は総選挙に際しても重大な論点となる可能性がありますので、社会民主党としての基本的な考え方をここでお示しするものです。



○はじめに

 少年は「社会の鏡」といわれることがあります。昨今の痛ましい少年犯罪の多発は、社会のゆがみを映し出しているといえるのではないでしょうか。

 最近連続している異常な犯罪の残忍さは、必ずしも少年犯罪に限られたものではなく、成人の犯罪にも共通する傾向です。とくに少年だけが残虐になったのでもなければ、少年犯罪が成人と異なる扱いを受けることが原因で少年だけに重大犯罪が頻発しているということも出来ません。

 私たちは、少年犯罪に対する最良の対策は子どもたちが周囲の暖かい愛情を受けて育つことが出来る環境をつくることだと信じています。凶悪な犯罪を犯した少年たちも、詳細にその背景をみれば、複雑な家庭環境やいじめなど様々な問題を抱えている場合が少なくなく、大人社会の犠牲者である場合が少なくないのです。すべてを犯罪を犯した少年個人の責任に切り縮め、少年審判の手続をいじることは、少年犯罪の抑止につながりません。少年たちはまだ未熟であり、だからこそその罪も大人と異なる理念や手続きのもとで審判を受けることになっているのです。



○少年犯罪の実態につて

・少年犯罪は増加しているか?

現在に急上昇したという事実はありません。1946年以来、いくつかのピークがあり、戦後第3のピークである83年には、検挙人員は31万人を数えました。現在は第4のピークと言われますが、27万人(97年)であり、95、96年と減りつづけた後、上昇傾向を見せたものです。(検挙内容も虞犯と呼ばれる、万引や自転車借用なども含み、警察において、窃盗として処理するか、補導として処理するかで数字が変化する。少年の強盗は、引ったくりなどが主流であり、恐喝も含まれ、押し込みは少ない。また共犯が多いので数字が大きく変化する。)【犯罪白書による】



・凶悪犯罪は増加しているのか?

少年の凶悪犯罪はむしろ減少しています。総数のみならず、人口比でも明らかです。

殺人、強姦、放火など凶悪犯計では、66年、7453件(0.55人 ・少年千人あたりの件数)でしたが、97年においては、2495件(0.25件)です。統計上も少年による凶悪犯罪が増加したという事実はありません。殺人をとれば、66年には346件発生していましたが、97年は45件でした。【司法統計、家庭裁判所受入人員歴年比】



 犯罪白書など公的なデータからも、少年犯罪の「急増」は示しされてはいません。少年犯罪の推移から、現行少年法が、失敗したという評価は導けないのです。むしろ諸外国と比較すれば、少年犯罪の抑止に成功していると評価できます。

 最近の特徴的な凶悪犯罪のなかに少年が関与するものが少なくないことから、少年犯罪がクローズアップされているようですが、事実関係をおざなりにした扇情的報道が目立ちます。子どもが凶悪化しているというような社会的雰囲気こそ、子どもにとって有害な環境であり、子どもと大人、社会との信頼関係を損なわせている面も否定0できません。



○「少年法改正案」について

 第145回国会に内閣から提出され今国会で審議入りした「少年法等の一部を改正する法律案」は、少年審判の適正化を法務省の立場から求めるものであり、その中心は少年審判手続きへの検察官の関与強化と抗告権の付与、裁定合議制度の導入などです。審判手続への検察官関与と少年犯罪の抑止はまったく無関係といわざるを得ません。現実に社会で起こっている少年事件と関係のない改正案を結びつけ、立法の動機とする態度は世論の操作以外のなにものでもありません。

 過日も草加市と綾瀬における少年事件に無罪判決が出されましたが、事実上、裁判官が検察官に紹介するいう「検察官関与」を先取りした形で、相次いで冤罪を引き起こしています。警察の捜査能力と裁判官の資質の向上が、第一に求められてしかるべきであり、安易に検察官の関与を強める内容の「少年法改正」を認めるべきではないと考えています。検察官関与は少年犯罪の抑止と無関係であるだけではなく、殺人など重大な事件においてえん罪事件が続発している現状を拡大する恐れが強いものであり、反対せざるをえません。

 少年犯罪の抑止を考えるのであれば、学校の態勢や警察の捜査・取り調べの能力こそが見直されるべきであり、むしろ警察法の改正などが必要なのでしょう。安易な厳罰化に効果がないことは、すでに外国の例(アメリカなど)でも明かです。「犯罪抑止」の効果を望むとしても、厳罰化を選択する根拠や理由はありません。

 いうまでもなく少年法の基本理念は、少年が健全に成長するために教育し保護することにあり、子どもの意見表明権を尊重し、非行を犯した少年に対しても子どもの特性に十分配慮した手続きを保障すべきです。

 少年の保護育成を充実させること、国選付添人制度の全面的導入、少年自身からの意見表明、参加の機会を設けるなど制度運用を法の精神にかなったものとすること、さらにこれまで置き去りにされた被害者救済制度を強化する方向での少年法改正が望まれます。

 政府の改正案はこれに逆行するものといわざるをえず、社民党は反対です。





社民党「少年法改正」への取組みについて



(1)えん罪を生む密室取り調べを排除するため「取り調べ」の録画・録音を求める。

(2)えん罪を防止し、誘導尋問、威迫など不適切な取り調べを防ぎ、少年の理解力に則した対応ができるよう「少年専門官」の導入。

(3)被害者に対するケアと補償の制度化。

(4)被害者への情報公開と民事扶助

(5)被疑段階からの国選弁護人

(6)子ども自身が被害者と対面し謝罪や説明を行う、両者の癒しと更生を計る「回復的司法」で提唱される面談など、非行の種類によって多様な解決方法を創設する。



○少年犯罪への対策について

わが党が青少年特別委員会において制定を強く求めていた「児童虐待防止法」が、5月17日、参議院本会議において可決成立しました。青少年の非行と密接に関係のある「児童虐待」への対策を示した法律です。児童虐待による心身の傷が、少年の問題行動の原因となっている事例があり、児童福祉関係者、心理学、精神医学の専門家からも、初期のケアの重要さが指摘されてきました。隠れた少年非行の原因であった「児童虐待」に対する施策は少年非行対策としても重要な一歩であり、半年後の施行後、数年、10年の単位で少年犯罪を見るとき良い変化が見られるものと予想されます。社会の複雑化にともない、これまでにないストレスにさらされている子どもたちに対して、社会としてのケアが十分であると言えません。児童虐待対策と心の傷ついた子どもへの対策は、隠れた少年非行対策であり、着実に少年非行、問題行動を減らす具体的な対策であると考えるものです。

 いまなすべきことは、子どもたちをめぐる環境の複雑化の元で健全育成への条件を探り、深く正しい現状認識を行ない、少年司法の現場に関わる人々、教育者、児童福祉関係者、心理学者、被害者、そして青少年自身の声を受け止め、真に有効な少年法のあり方を見出すことではないでしょうか。

 現実に多発する少年の凶悪犯罪に対しては、警察や学校が初期段階で適切な対応をすることが最も重要で、そこがしっかりすれば相当程度が防止できるはずと考えられます。



参考



少年非行対策に関する件(決議/衆議院法務委員会)



 少年による凶悪重大事件が後を断たず、その内容も深刻化している憂慮すべき状況にあって、次代担う少年の責任感と自立心が醸成され、その健全育成が図られるとともに、国民が安心して暮らせる社会を創り出すことが、喫緊の国民的課題である。

 そのためには、教育、児童福祉、精神的医療・ケアなど各般に亘る課題について、少年の非行防止に向けた総合的施策を策定し、これを国や自治体はもとより、学校・地域・家庭など国民一体となって推進すべきはもとよりであるが、現行少年法についても、次の諸点について、早急に抜本的検討を加え、所要の立法的措置を講じる必要がある。



一 少年の健全育成という少年法の根本理念は維持すべきであるが、現行審判の在り方を改め、併せて少年の自覚と自省を促すに足りるものとすること。



二 現在付託されている少年法改正などにより、実体的真実を解明し、事実認定を適正に行い、少年に正確な事実認識を与えて自覚と自省を促すとともに、被害者の立場を尊重する制度を採用すること。



三 少年の規範意識を醸成し、事故の責任を正しく理解させ、その健全育成を図る見地から、年齢問題を含め少年の処遇体系全体を早急に検討すること。



 右決議する。





■法務委員会決議について

 社民党は子どもの保護育成の視点から、今後も少年法の成果を生かしつつ、青少年をとりまく環境の整備を望んでいます。

 法務委員会特別決議において、「年齢問題」と記されたものは、民主党・共産党とともに選挙年齢の引き下げ問題と関連して協議するものとしているものであり、社民党もその意味において盛り込むことに同意したものです。自民党の主張する少年法年齢引き下げについては、同意したものではありません。

 なお、これまで被害者救済が置き去りにされてきたことは遺憾であり、社民党としても少年審判の情報公開の検討と合わせて検討の用意があります。





◆少年犯罪問題と少年法改正問題の論点



○最近の少年の巨悪犯罪の多発と審議中の「少年法改正案」が無関係である こと。

○検察官関与の強化と最近の少年事件抑止には無関係であること。

○少年事件では冤罪事件が多発しており検察官関与はこの傾向を強める恐れ が強いこと。

○厳罰化には少年犯罪を抑止する効果がないこと。

○初期段階での学校や警察の適切な対応こそが望まれていること。

○少年法の改正はその基本理念活かす方向で行うべきであること。

<終>



2000.5.31/社会民主党政策審議会 内閣・法務部会



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