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●関根千佳(せきね・ちか)
株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)代表取締役。
98年、株式会社ユーディット設立。
最新刊『「誰でも社会」へ』(岩波書店)
http://www.udit-jp.com/ |
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◆福島:参議院の共生社会に関する調査会で、参考人として来ていただいて、ぜひ他の人にも聞いてほしいなあと思ったんですね。で、経歴が、IBMで働いてらして、その後、起業されて、今、社長さんですね。まず、起業された経過など話していただけますか。
◆関根:そうですね。まあ、IBMで社長に直訴という、ちょっと激しい方法で(笑)、自分でやりたかった高齢者・障害者が使いやすいパソコン作りというセンターを起ち上げて、もうすでに5年ほど経っていたんですね。他の日本のメーカーさんにはまったくそういうのがない。社内に女性の管理職もいなければ、障害者も、本当にもうどこかに固まっているだけ、というのがだんだんわかってきたんですね。ですから、IBMの中で培ってきた、そのような、高齢者・障害者がITを使えるようになるノウハウというものを、独立して他の企業さんと一緒に考えていきたいなと思ったんです。で、あっさりとIBMをご卒業いたしました(笑)。後継者も育ってたし(笑)。
高齢者や障害者の意見をインターネットでまとめる
◆福島:今は正社員が5人だそうですが、ちょっと会社のことを話していただけますか。
◆関根:今はですね、全員が在宅勤務なんですが、正社員が5名、登録社員が130名。もう世界中に散らばっている。そういう仕事の仕方をしています。年齢も17歳から80歳まで。で、もちろん子育て中のお母さんもいらっしゃるし、まあそれも、半分くらいは障害を持たれた方か65歳以上の高齢者なんです。その場合は、障害が重ければ重いほど、高齢であればあるほど「やった〜! 70代1人ゲット!!」という感じで喜ばれるという、ちょっと変わった会社なんですね。
◆福島:どうして高齢者、あるいは障害が重い人ほど、「やった〜! ゲット!!」っていうふうになるんですか。
◆関根:うちが高齢者や障害者の意見をインターネットでまとめて、それを企業さんの物作りに役立てるために存在している会社だからです。ATMやデジタルカメラや、テープレコーダーや、パソコンのハード・ソフト。そして、いろんなところのウェブページですね。これを高齢者や障害者の目で見ると、健常者のわからないいろんな使い勝手の良し悪しというのが見えてきます。それを集めて、「これをこういうふうにすれば、もっと使いやすくなりますよ」「もっといろんな人に喜ばれるものになりますよ」というレポートをお出しするのがうちの仕事なんです。ですから、できる限りITが使えて高齢の方、ITが使える障害者の方、というのが大勢必要なんです。企業さんからも、たとえば「視覚障害者を5人集めてください」といった依頼が結構来ます。
◆福島:へぇ〜。私は社長をやってらっしゃるということでも、とても素晴らしいと思うんだけれども、『「誰でも社会」へ』というご本の中に、すごくきれいな絵が出てきて、これも障害者の方、障害者って言葉はよくないと思いますが、そういう方が描いてらっしゃるんですよね。
◆関根:はいはい。うちの登録社員の中にはカメラマンもいれば、絵描きさんもいるんですけれども、その絵を描いたのは指先が2ミリ動くだけで、人工呼吸器を着けてて、言葉もちょっとままならなくなってきている男性なんです。彼が指先2ミリだけで、コンピュータグラフィックスで描いた絵、それがいろんなコンテストなどでグランプリを取ったりしている。その1枚を表紙に使わせていただいたんですよ。
◆福島:誰もこれが、そういうふうに描かれたとは考えないですよね。すごく面白いと思うのが、男女平等とか、女性の人権に取り組んできて、なんていうか、女性であるってのはものすごくラッキーだったと思って、というのは、男の人がこの社会の中心ですよね。本に書いてらっしゃるとおり、成人で、健康で、男性…。
◆関根:“健康な、若手の成人男子”ですね(笑)。
◆福島:そうですね(笑)。“ミスター・アベレージ”と書いてらっしゃいますね。ただ、そういう人を中心に作られている社会だから、女であることによって、その人たちから見えないことを提起できる。
◆関根:おっしゃるとおりです。
我々が障害と呼んでいるものは一体何なのか
◆福島:要するに、マイノリティーであるということによって社会の中にない視点を提起できるわけだから。
◆関根:私たちは、たとえば、混血児のことを「ダブル」って呼ぼうって言い方をしてるんですね。2つの文化を持ってるんだから、それは、2つの視点でものを見られるということですよね。障害者であるということや高齢者であるということも、健康な成人男子と比べれば、2つの文化が読めるというわけで、ダブルで価値があるんですよ。だから、うちの登録社員たちは、障害が重ければ重いほど、たくさんお金が払ってもらえるってことなんですけど(笑)。ユニバーサルデザインについては、最初は健康な成人男子を対象にものを作って、それから女性や子どもや高齢者や障害者が使いにくいと思われるバリアをはずしていくという、バリアフリーの概念ではなくて、どうせだったら初めから子どもも女性も高齢者も障害者も外国の方も、ちゃんと使えるようにデザインしようよ、という考え方なんですね。法律を作られる方、政策を決定する方、ものをお作りになる方、そう人たちの中に、これからはこういう意識が必要なんだと思います。別にそれはユニバーサルデザインという名前がついている必要は全然ない。「わたし」が使えればそれでいいんです。
◆福島:万人のためのではなくて、でも、いろんな人が使えるもの、それを個別にどうやって適用させていくかって、書いてらっしゃいますよね。
◆関根:たとえば片手がない方が、タバコにマッチで火をつけるのに両手が必要だから、何とか片手でつけられないかとライターを作る。交通事故で肩から下が動かなくなったような、頚椎損傷の方のワープロとして音声入力システムを作る。こういうふうに、科学技術のために障害者が果たしてきた役割ってすごく大きくて、そういうのはたくさんあるんです。実はウォシュレットも最初は、TOTOの方が病院で作られて、そして広まっていった。高齢者や障害者のために便利だなって作られたものが、実は誰にとっても便利だったというのはいっぱいあるんですよ。
◆福島:確かに今までのバリアフリーっていうと、どうやってお手伝いするか―たとえば10できない人がいて5だったら、その5をどうやって補助するか―みたいな意識があったような気がするんです。それがそうではなくて、重度の障害が個性で、目の見えない人はむしろ暗闇の中で非常に活動できる人なわけだし…。
◆関根:そうそう。視点の違いだけなんですよね。だから、たとえば私たちが空を飛べないとか、海の中に深く潜れないということで障害とは呼ばないわけですよね。じゃあ、我々が障害と呼んでいるものは一体何なのか、と。私は全盲の登録社員何人とも一緒に仕事をしてきて、彼らのほうが私よりも10倍くらい聴覚はいいし、記憶力はものすごくいいし、そういった意味で、その人たちの側からすると、もっと全然違った社会が見えてくるような気がするんですね。サイレント・マジョリティというのが本当はいっぱいいて、実は健康な成人男子というのは人口のうちのごくわずかでしかなかった…。
◆福島:健康な人もよく病気になるし、弱かったりするし(笑)。
◆関根:その人たちだって、子どもを連れてたり、足の弱いお年寄りと一緒に歩いていたりすれば、その一部に入るわけです。じゃあ一体私たちは、何をベースにものを作ってきたのかと思うわけですよ。この中で、子どもの頃子どもだった人、手を挙げてください。そうですね(笑)。じゃあ、好むと好まざるとに関わらずこのまま年を取っていくと思ってらっしゃる方、手を挙げてください。この中で1度も病気も怪我もしたことがない人、手を挙げてください…いないよね。ということは、今、健康で動けて元気良くてって状態は一時的、テンポラリーなんです。英語では実は、健常者という言葉がない。その代わり、障害者が健常者を揶揄して言う言葉に“テンポラリー・エイブル・ボディ”って言葉があるんです。“今たまたま健康体なやつら”って意味なんです。
◆福島:確かにねえ。
◆関根:だから、「健常者」って言葉は、すごく傲慢な言葉なんですよね。いないもん、そんな人。
◆福島:女の人は妊娠したり、男女とも子育てがある。
◆関根:身重って状態になるわけですもんね。
◆福島:今日は、障害者と高齢者の問題が、よりぐぐっと自分の問題になったのと、非常に面白い視点をたくさんいただいて、ありがとうございます!
◆関根:いいえ。ぜひ、今後ともこの問題に興味を持っていただけるとうれしいです。
◆福島:ありがとうございました。
(2003.2.21/参議院会館にて) |