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斎藤貴男さん(ジャーナリスト)
福島瑞穂 |
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●斎藤貴男(さいとう・たかお)
ジャーナリスト。1958年東京生まれ。自由な存在としての人間をテーマにジャーナリスト活動を展開。著書に『梶原一騎伝』(新潮文庫)、『サラリーマン税制に異議あり!』(NTT出版)、『カルト資本主義』(文藝春秋)、『プライバシー・クライシス』(文藝春秋)、『機会不平等』(文藝春秋)がある。 |
福島 今日は斎藤貴男さんと対談です。
盗聴法の問題などで、ずっと一緒にやってきて、『プライバシークライシス』という文藝春秋から出ている本を参考にさせていただいて、ほんとに愕然となりました。ここまでプライバシーというのは明らかになっているのかと思って。たとえば今、4月1日から厚生労働省は、今まで世帯単位だった健康保険証を1人1枚にするということを言っています。これはそのことだけでしたらいいんですが、順々に電子カード化というのが、そこから開かれる、と。そうすると、医療情報、どんな病気を持っているか、持病があるのか、会社にも知られたくない、精神的疾患があるのを人にも知られたくない、HIVを知られたくないと思っていたのが全部電子カード化でコンピュータ化されて、最終的には総背番号制に行くのではないか、という不安もあります。盗聴法の問題は警察・法務省、国民総背番号制は総務省、医療情報のコンピュータ化は厚生労働省、納税者総背番号制は財務省、と、どこの役所も、今必死で国民のプライバシーをどうやって自分達の配下に置くか、という状況だと思います。
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『プライバシー・クライシス』
文藝春秋・720円〈税別〉 1999年刊
国民総背番号制による人間管理・監視にいち早く警鐘を鳴らした。
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斎藤 おっしゃるとおりで、この省庁再編で、どこまで国民の個人情報を握っているか、という省庁間の主導権争いが始まっているような気がしますね。その総本山が総務省になるんでしょうし、他にも厚生労働省、財務省、ということだと思いますね。総務省あるいは復活した旧内務省の恐ろしいのは、土壇場になって郵政省がくっつきましたよね。郵政省と言えば、郵便局、そういうと何となくほのぼのとしたような感じがあるんですが、今やられていることは、郵便局職員が、いろんなお宅に行きますよね、それで、行った先の情報をコンピュータにインプットしているんですよ。
福島 どういうこと? 斎藤 つまり、郵便局職員の仕事は、ずっと職人的なものだったんですよ。自分の担当の町の手紙が来たら、自分の配りやすいように並べ直して、自分の経験則でこの家は昼行って書留を届けてもいない、とか、犬がいるから気をつけようとか。これが、全逓が崩れた時から転勤が早くなって、職人気質だけにまかせてはおけないということになった。それは何も郵便局だけの話ではないんですが、それで、情報を共有化しようということになった。並べ方も郵便番号の7桁化があって、機械が並べるようになった。それと、さっきの犬がいるとかそういうのを、帰ってきたら郵便局のパソコンに打ち込むことになった。
福島 へぇ〜。 斎藤 で、実際にはまだ完全にそこまでは行ってないけれど、業務としてはそこまでやろう、ということになっている。これも全部役所のパワーになるわけですよね。
福島 なるほどねぇ。それと、斎藤さんが取り上げている中で、交差点に監視カメラ、という問題がありますよね。23区内の幹線道路内100ヶ所にカメラと電送装置のついたポールを設置すると。これは交通事故のため、って言われているけれども、Nシステム以上の脅威ですよね。ずっとこういうことをやっているわけだから。
(*Nシステム:自動車ナンバー読みとりシステム。幹線道路や高速道に設置されている。)
斎藤 Nシステムは基本的に走っている車を追うわけですが、この新しい交差点カメラは車だけじゃないでしょ。ただの通行人も撮れる。Nシステムは盗難車を追う、ということでしたけれども、実際、検挙率は上がっていないですよね。それと同じで、このカメラもまた交通事故の捜査というよりは、どこを誰が通った、ということを四六時中把握したい、ということに尽きると思いますね。
福島 もしそういうのを国会につければ、デモに誰が来て、どういう車が来て、というのが全部丸わかりですよね。だから、国会の周辺についているんじゃないか、と私は思うんですけれどね。
斎藤 ついているんじゃないですか。それがただの監視カメラで、ただ見ていたり、ビデオテープに撮っている、というだけなら、まだ可愛いんですよ。全部同じ時間をかけて見なくてはいけないわけだから。そうじゃなくて、ハイテクの怖さで、今はデジタル画像で撮りますので、何でもないところは全部飛ばして、狙った人間が映ったところだけを出すということができます。
福島 それは可能なんですか?
斎藤 はい。顔認識技術、というのがあります。「フェイシャル・レコグニッション」と言いまして、イギリスにはすでに街角にあるんですよ。
福島 IRA(アイルランド共和軍)などの関係でね。
斎藤 それはIRAが建前なんですよ。実際どこまで機能しているのかは未知数なんだけれど。それを今アメリカでもやろうとしていて、日本は今こういう形で始めた、と。僕はある日本企業に取材しましたけれど、彼らが2年前に言っていたのは、今警察庁と法務省と協議中です、と。街頭において、指名手配の犯人を追跡する、と言うのですね。盗聴法の時もそうだけど、「俺は何も悪いことしていないから大丈夫だ」と一般の人は思いがちです。でも、追跡される人、というのは、何も人殺しをした人だけとは限らないんですよね。警察にとってジャマな人がすべて対象になりうるわけだから。それはこっちの想像でしかない部分もありうるわけだけど、はっきり誰を狙っているということを開示していない以上、そういう可能性は、やっぱり残るわけでしょ。
福島 それも指名手配犯のためだけにものすごいお金をかけてやるっていうのも…。
斎藤 それこそコストパフォーマンスを考えてみるといい。どうかしてるでしょ。
●最初から恵まれている人だけ自由になれればよい?
福島 そうですね。それからもう1つ、最近斎藤さんが出されて評判になっている本に、『機会不平等』(文藝春秋・2000.11刊)がありますよね。「結果の平等主義が衰退を招いたのではない、私たちは機会の平等すら失いつつある」と書いていらっしゃるのは、ほんとにそのとおり、と思ったんですよね。教育がそうですよね。要するに、金持ちの再生産、というような状況に、ほんとに残念ながらなっているわけです。
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『機会不平等』
文藝春秋・1619円〈税別〉 2000年11月刊
真に自由な個人とは何かを問い続けてきた著者の総決算的な作品。
「私たちは機会の平等すら失いつつある」 |
斎藤 ええ。結果の平等を求めすぎたから競争力が失われたと言うけれども、これは善い悪いを別にして、現実に平等でもなんでもないわけですよね。だから、結果の平等を求めすぎた、ということ自体、どうかしていると僕は思う。個々の教育の問題を取材してみると、明らかに結果の平等を問わない、というのとは、だいぶ違うわけです。教育改革国民会議の江崎座長は、すべて遺伝子検査で決めたいと言った。機会の平等を奪うのが目的なのではないか。教育に限らず、あらゆる議論で難しいのは、いろんな人がいる中で、できるだけみんなが幸せになろう、というので難しいわけでしょ。だけど、今やられているのは、最初から恵まれている人だけ自由になれればよくて、あとの人間はただそれを支える労働力とか消費者としか見られていないわけですよ。知識も見識もこうなったら要らないんです。だから議論が居酒屋談義の枠を出ないわけですよ。できもしない、なんぼ教えたってわからない者のために手間暇かけたくない、いわば実直な精神だけ養ってもらえれば結構、と。要するに、服従しておれ、逆らうな、ということですよね。でもって、その浮いた金をエリートに向けるんだ、と権力者たちは考えている。そしたらいずれその人たちが日本を引っ張ってくれるんだ、と。こういう企みを、僕は取材で明らかにしました。
福島 今回の学校教育法改正の中に飛び級の話も出てくるものね。
●サラリーマンはほんとに自立すればいい
斎藤 そう。エリートのことしか考えていないんです。
福島 それともう一つは、特権階級ですよね。国会は二世三世議員が4割近く、と言われていて、30代でもすごく保守的な人が多いんですよ。家督相続制が生きている。
斎藤 だから単に選挙で選ばれた選民意識、というよりは、子どもの時から培われたもの、だからここまでなった。俺と君たちは違う、最初から違う層なのよ、って言いたいのでしょう。そこですぐ、弱者切り捨てって僕らは言ってしまいがちだけれども、切り捨てならまだいい。切り捨てられた人が勝手に生きていいんなら、これはまだいいわけですよ。
福島 でも、奉仕せよ、って言うんでしょ。
斎藤 そう。奉仕せよ、って言うのは、お国にだけ奉仕せよ、というのではなく、我々エリートのために奉仕せよ、と彼らは言いたいのです。
福島 でもプライバシーの問題と、こうした機会不平等の問題というのは、日本が今抱えたすごくシビアな問題ですよね。
斎藤 そうですね。これは裏・表であって、どっちかだけでも成り立たない。だから、盗聴法や背番号や監視カメラを必死になってやりたい理由は、社会階層を固定化したい、っていうことに尽きるんだと思う。
福島 ほんと、透き通ったみたいな感じになっちゃう。それもこちらだけが。鏡があって、行政・権力からは見えるけれども、私たちの方からは全くブラックボックスで、機密費もそうだけど、何やってるんだかさっぱりわからない、と。逆の方からは、すべて一元化されて、スイッチポンで見られてしまうという。こういう恐怖心だよね。
斎藤 そこにハイテク技術が加われば、遺伝子なんかもいずれ透明にされちゃうわけですよ。教育改革国民会議の江崎さんが言うには、就学時検診で遺伝子検査をして、見込みのないのには勉強させないと。
福島 ひぇ〜。労働力。
斎藤 今の遺伝子技術でも、「ジーンリッチ」ということがアメリカなんかでは言われている。つまり、胎児の段階で遺伝子をいじって、頭のいい子を作るわけ。で、これは多分すごくお金がかかるから、金持ちほどそうなるでしょう、と。もっと恐ろしいのは、どうせ労働者階級なんだから、子どもを「ジーンプア」にしちゃおう、っていう操作もありうるかもしれない。つまり、お金持ちに可愛がられるための労働者に、自分の子どもを仕立てる。半端に賢いとつらいから。
福島 そういう社会が進行している中で、若い人に希望がなくなって、突然ナイフを振り回すとかが起きるわけでしょ。つまり、敗者復活戦も生き直しもできない社会に、みんな絶望しているわけじゃないですか。おっしゃったようなことが起きるっていうことは、大きな目で見て、社会にとってはマイナスだと思うんですよね。
斎藤 権力を持った人は、権力に守られている。若いのがいくら暴れようが、自分の家には来ないわけですよ。
福島 これはどうやったら変えうるのだろうか。
斎藤 それはものすごく難しいんだけれども、やっぱり1人ひとりがもうちょっとそういうことを考えなければならない。今は、多分多くの人は感じているんですよね。感じているから暴れるんだけれども、感じるだけじゃなくて、ちゃんと勉強して理解しなきゃいけない。
福島 サラリーマンも働いている人もいろいろなんだろうけれど、結果の平等が衰退を招いたんじゃないかとか、農村の人は得して自分は損だとか、サラリーマンは損で自営業者は税金上得だとか、いろいろ思っている気持ちがありますよね。そういうのに、行政や権力側がすーっとうまく入っていく、例えば一元化することなどで。
斎藤 会社員も、僕が一番嫌いな言葉なんですけど、「私も組織の人間ですから」なんて言う。では会社は、組織の人であるあなたを守ってくれるでしょうか。これだけリストラほいほいされてて、どこまで会社にしがみつくのか。人間だったら、いつまでも奴隷になっているんじゃないよ、と僕は腹が立つ。
福島 宮崎学さんも、個人営業主として会社員は生きろ、と書いた本を出しているものね。
斎藤 個人営業主という視点は非常に重要なものです。サラリーマン税制に慣れきって、自分で税金も計算できないような人は、会社の奴隷にしかなれないんですよ。
福島 だから、一番最初に言った健康保険証の話もそうだけど、社会の間に会社が入って、保険組合も全部一元化されているから、情報もプライバシーも家族関係も何もかも、あらゆることが会社に筒抜けで、その結果国家に筒抜けなんだよね。これはすごくしんどいよね。
斎藤 今よくサラリーマンは自立しようと、それこそ経営者側から言うけど、ほんとに自立すりゃいいんですよ。自立したら、ただ飼われる、ということもなくなるのだから。
福島 今日はどうもありがとうございました。
(2001.2.13 福島瑞穂事務所にて) |