■「どん底」=「働かせ方の自由」への競争
福島 きょうはどうもありがとうございます。私は内橋さんの本を教科書のように読んでいるので、きょうはお久しぶりにお目にかかるのを非常にうれしく思っています。
いま国会は大きく2つの流れがあると思うんです。1つは、周辺事態法、日の丸・君が代法、盗聴法、組対法、憲法調査会の設置、住民基本台帳法のコンピューター化が通って、国家主義が前面に出てきた。もう1つは、規制緩和の法律がものすごく通っている。例えばリストラをする企業を支援するという産業再生法、大家さんが正当理由なく借家人に「出ていけ」と言えるようになった定期借家法、ご存じ労基法の問題、派遣法の問題、ある一定の職種しか派遣ができなかったのが、原則としてすべての職種に派遣法が適用になるといった労働法制における規制緩和が非常に進んでいる。
まず、いまの国会の状況などについて思っていらっしゃることを話してください。
内橋 いま進められている経済政策を見ますと、国際競争力強化がすべて大義の御旗になっていますね。「競争力を強化するために」と、すべて競争、競争ということですが、どこに向かって競争しているのかというと、「どん底」に向けての競争です。奈落の底に向けて競争している。それをアメリカではレース・ツウ・ザ・ボトム(race
to the bottom)と言っています。ボトムに向けてレースをやっている。行き着く先は、いまおっしゃった労働ということについてみれば、働き方の自由ではなくて、働かせ方の自由です。どんな労働があるのかといえば、その1つの形態がワンコール・ワーカー、電話1つかければいつでも飛んでくる労働者。社会保障はもちろんありません。働く立場からいえば、お呼びがかかるまで、お座敷がかかるまで、いつも待っていなければならない。他の企業で働いたら呼んでもらえない。
非常に過酷な労働条件、それに向けてさや寄せをしていく。そのための規制の撤廃。自由に働かせることができるという、それは自由に働くことを否定する社会です。それを招き寄せて、そうしなければ競争力が回復しないと言う。
さまざまな行政組織、経済戦略会議もそうですし、行政改革委員会の規制緩和小委員会(現在は規制改革委)、これらはいずれも国民が選んだわけではない。小渕首相の私的諮問委員会である産業再生会議にしても、そういうものをどんどんつくって、そこで法律改正を必要としない変更であれば自由に進められるという体制ができてしまって、だれも歯どめをかけることができない。
いま最も重要なのは、1999年を振り返って、もちろんいまおっしゃった多くのことがあっという間に生まれたということですが、意外に水面下の下部構造に目が向いていないということ。たとえば、今回の2000年度予算、その中に何があるかということをもっとしっかり見届けないといけない。今回の2000年度政府案、これから審議が始まるわけだけれど、これは大変なことになると思っているんです。このことがなかなか人々の危機感にならない。マイクを向けられると「景気回復」と叫ぶものだから、「では赤字国債をジャブジャブ出して景気回復しましょう」ということになる。私は講演に行くといつも「景気回復と叫ぶのはやめましょう。経済政策を変えろ、と言いましょう。でないと、消費税2ケタ、そして政策インフレが襲ってきますよ」と言っているんです。
今回の政府予算案の中身を詳細に検証してみると、何を進めようとしているかよくわかる。税収が48兆ぐらいしかないのに22兆が国債費でしょう。国債費というのは、国債の元本償還、それからもっと大きいのは利子負担、国債の利払いです。ゼロ金利のもとで国債の利払いはそう大きくは増えていませんが、逆にいえば、増えさせないためにゼロ金利を続けているわけです。一般預金者の得べかりし所得が移転されている。金利を1%上げると3兆2000億、国債の利払いが増えるんです。こういうやり方が続くはずがない。私は日本経済をウォッチングして43年になります。その間には貿易資本自由化が昭和39年から40年にありました。その後、オイルショック、円高不況、プラザ合意、バブル膨張、崩壊、90年代不況と見てきたけれども、いまが一番危ないと思います。
■理念型経済を築く
福島 予算案を見ての根本的な問題点ということについて、もう少しお話しいただけますか。
内橋 今回の2000年度予算というのはやりたい放題ですね。この1月は被災地で多くのシンポジウムがありました。被災地は、経済8割復興などと言われていますが、そんなのはウソですね。復興が停滞していると言う人は多いけれど、停滞ではなくて、私は、後退していると言っているんです。被災地において、驚いたことに、公共投資、復興予算というのは10兆を超えている。しかし、いま現地で何が起こっているかといえば、45歳を超えた失業者は、有効求人倍率0.1です。ほとんど就職先がない。失業率は6%近い。日本全国の中で最も高いわけです。なぜそうなっているのか、10兆も注ぎ込んで、と思うでしょう。そこが大変重要なところです。
社会には生産基盤、もう1つは生活、あるいは生存基盤が必要なわけです。生産条件があり、生存条件がある。被災地の復興過程においては、従来型の回復、経済振興策がとられている。生産条件を回復することにものすごいお金をつぎ込んだ。従来ですと、生産基盤を回復していくことが生活基盤の回復につながったんです。つまり生産条件がよくなれば生存条件もよくなる。両方がパラレルに来た。現在はどうか。生産条件がよくなっても、生存条件がよくなるとは限らないという経済の構造になっている。
実は日本経済全体がそうなんです。現在のような予算を見て、このように生産条件優先型のやり方を続ければまるで景気が回復するように思い込み、人々も景気回復してくれと言って、失業している人はそれがやがて自分の就職口回復につながると思い込んでいるけれども、そうはならないという経済の発展段階に来ている。生産条件をいかによくしても、もはや生存条件はよくならない。現在の経済政策のあり方、これを声に出して変えていかないとだめなんです。
福島 生産条件ではなく生活条件を重視する社会をつくる、経済政策を変えようというのは抽象的にわかるんですが、具体的にどういうことか、その辺についてどうお考えか教えてください。
内橋 『共生の大地・新しい経済が始まる』(岩波書店)とか、『環境知性の時代』(岩波書店)の中でも言っておりますが、理念型経済に変えなければならない。実験的社会システムをつくる。浪費がなければ成長がないというような経済成長のあり方を変えるということです。節約と成長が両立する経済。社会の矛盾を解決していくことが適度な成長を促す、という…。
まず1つは、社会参加型の経済を築く。もう1つ、私はフェック(FEC)と呼んできたのですが、現在の世論、あるいは国際的な流れ、人々の常識に大きく反して、Fはフーズ、食料、Eはエナジー、Cはケアです。これらの自給自足圏の形成をめざすという方向です。この2つが理念型経済の柱、車の両輪だと考えています。
他の国、例えばアメリカのマネをするのでなく、日本の再生は日本の私たちがなしとげる。2000年度予算の逐一詳細を1つひとつ批判して、景気回復と言いながらその本質はどこにあるのか、回復した後の姿はどうなるのか、本当はそうはならないですよと。そういう問いかけをきちんとやっていけるようになれば、もっと多くの人が支持するようになると思います。
福島 野党、社民、民主、共産はともに、いまの予算について「ばらまきだ」という批判はしているし、民主も公共工事の見直しや地方分権は言っているんですが、民主党のブレーンである経済政策家たちは、いずれも規制緩和論者たちなので、やはりグローバル・スタンダード、規制緩和をして自由競争をすることで活性化、強い者はより強く、弱い者はより弱くという経済政策だと私は思っているんです。社民党はリストラや例えばタクシーの規制緩和などいろんなことに関して、むしろ安全、健康という側面からそれに逆に歯どめをかけていく政党でありたいと思っています。
ところで、日本は中小企業における蓄積、技量は高いですよね。そういう点についてアドバイスなりお考えがあったらお聞かせください。
■日本型自営業を抜きにして経済再生はない
内橋 私は中小零細企業という言葉は使わない。「日本型自営業」と呼んでいるんです。日本型自営業の特徴というのは、まず生産基盤、先ほどからお話ししていますが、事業の基盤と人々の生活基盤が重なり合っていること。しかもそれが地域社会と同心円、これが日本型自営業の特徴です。数でいえば日本の企業数の9割以上。それから雇用でいえば8割以上。年間の付加価値で7割以上です。日本経済は日本型自営業に支えられているわけです。ですから規制緩和一つ論じるにも日本型自営業の足腰を強くするということを抜きにして議論は成り立たない。日本型自営業を抜きにして日本経済の再生はあり得ない。その位置づけをもっときちんとしてほしい。これをいま、産業の新旧交代で淘汰するんだ、つぶれるものはつぶせ、と言う。
福島 産業再生法はそうですものね。
内橋 ええ、そこに本当の怒りを感じます。銀行はどうしているかといえば、銀行がいま国債を買っているわけです。銀行はなぜ国債を買うのか。「公的資金を受けた以上、私たちは安全なところに投資をしなければならない。だから商工ローンに融資をしたり国債を買うんだ」と言っている。
福島 国債を買ったほうが危ないんじゃないですか。
内橋 そうですね(笑)。いま日本のリスクそのものが高くなってきている。だれがリスクマネーを負担するか。それを家計、個人にやりなさいと言っているのが『経済白書』ですよ。生活者をリスク社会におびき出す政策をとっているわけです。それももっとはっきり知ってほしい。
いろんな意味で転換期に来ている。どうやっていくかといったときに少数野党はどうするか。それは数合わせのための少数与党にはならないことです、もはや再び。
福島 いまは少数者であることを恐れず、多数者を説得することを惜しまずという、両方で頑張ろうと。
内橋 政策形成能力を持った本当に知性のある人、新しい知性を呼び寄せる。もう1つは、大きな思潮を巻き起こす。それはちょっと違うんじゃないか、と思う人々を新たに結集していく。そういう本当の意味のイニシアティブをとっていく人が求められています。それはもう肌身で実感できます。
福島 きょうは個人的にもいっぱい宿題が出たような、できの悪いゼミ生のような心境なんですが、またいろいろ勉強して頑張ろうと思います。どうもありがとうございました。
内橋 いやいや、お忙しいのに、貴重な時間でした。
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